美術館で愛を語る 岩渕潤子著


『美術館で愛を語る』岩渕潤子著 PHP新書

「現代に生きる私たちが美術館へ行くことの社会的な意味は、自分とはちがった人がこの世の中にはたくさんいて、彼らは自分とちがった世界を見ている・・・・・・ということを知るこにある。世界は均質でも均一でもない。世のなかには人の数だけちがった価値観が存在し、一枚の絵を見ても、だれ一人として、まったく同じことを感じたりはしないはずなのだ。」

本書にはおそらく一生かけても回りきれないだろう美術館の情報と、その道程が記録されている。羨望でもあるし、一方で、彼の国の美術館で一枚の絵にたどり着くまでの自らの旅程や感じたことなどが思い出されて、とても素直に書かれているし、美術館好きにはとても共感をもって受容できる1冊だと思う。

アートには、親しみと羨望が同居している。理性よりも感性と欲望がうずまくところに価値が生まれる。ただ、その価値を超えて、冒頭に紹介したように世界の多様性とその一部としての自分を感じるための触媒としての役割を信じているし、その使命を美術館には期待もしている。

だからこそ、誰もが楽しめるし、誰もが作ることができ、担い手であるとこれは私論だけれど、そうした想いを新たにしました。